鉄フライパン初心者の多くが悩む「焦げつき」
焦げつくレベルの焦げは料理も美味しくなくなるし、焦げを落とすのも大変ですよね。
そこで、鉄鋼メーカーに勤める鉄のプロが焦げつかせない方法と焦げつきへの対処法を伝授します。
他のサイトとは違って、焦げが発生する根本の原因をわかりやすく詳細に解説しますので、この記事を読めば焦げへの不安が消えると思います。
【結論】予熱と少し多めの油で万事解決!
焦げの発生原因は
- 食材とフライパンとの摩擦
- 高温すぎる調理
この2点。
なら、摩擦を減らして食材を高熱から守ればいい。
ではどうするか?
以下のとおりです。
- しっかり予熱
- 油を多めに使う
- 長時間高温調理をしない
詳細は後述します。
焦げの正体
焦げつきを抑えるためには、そもそも焦げとはなにか?どういう時に発生するのか?を知る必要があります。
ここでは焦げの正体に迫ります。
焦げとは高熱によって食材が炭化したもの
焦げを一言で表すなら、こうなります
"強い熱によって化学反応が生じ、食材が炭化したもの"
要は食材を高熱にさらし続けると焦げは発生するわけです。
炭化というと文字通り、食材が炭のようになること。
炭と焦げは黒くて同じ見た目でしょ?
実際途中まではプロセスが同じす。
焦げの発生メカニズム
では食材はどんなプロセスで炭化するのか?
以下の表に簡単にまとめました。
段階 | 温度 | 説明 |
---|---|---|
1_水分がなくなる | 100℃付近 | 加熱により食材の水分が蒸発、乾燥し始める |
2_中身が変化する | 100~180℃ | 乾燥後も熱し続けると、タンパク質・炭水化物等が熱分解を始める |
3_炭素が残る | 180~250℃ | 熱分解が進むと水素や酸素が失われ、炭素が残る |
4_黒くなる | 250℃以上 | 炭素濃度が高まり、食材が黒くなる |
例えばタンパク質は、熱分解によってまずアミノ酸に分解され、さらにアンモニア、二酸化炭素、水、アミン類、有機化合物、そして最終的には炭素へと変化していきます。
残った炭素がさらに熱されるとよく見る真っ黒な焦げの完成です。
摩擦が焦げを生みやすくする
また、鉄フライパンと食材の摩擦が大きいほど焦げは発生しやすくなります。
摩擦が大きい=食材が鉄フライパンに付着しやすくなるわけですから当然っちゃ当然。
後述しますが、これは研究でも明らかになっています。
焦がさない方法
上述のとおり、焦げは食材を高熱にさらし続けることで発生し、摩擦が大きいほど発生しやすくなります。
裏を返せば、食材を高熱から守り、摩擦を低減できれば焦げは抑制可能。
では具体的にどうすればいいか?
- しっかり予熱
- 油を多めに使う
- 長時間高温調理をしない(適度に動かす)
詳細は後述します。
しっかり予熱
しっかり予熱するとなぜ焦げが発生しにくくなるか?
端的にいうと、以下のとおり
- 鉄フライパンと食材の摩擦が減る
- 鉄フライパンの水分が飛んで食材とひっつきにくくなる
とりあえずこれだけ覚えておいてもらったらいいです。
以下少し専門的な話になるので興味ある方だけご覧ください。
予熱によって鉄フライパンと食材の摩擦が減る理由
これも結論だけいうと、酸化被膜の生成および安定化に繋がるためです。
「は?」と思いますよね。
鉄のフライパンの表面には微細な凹凸があります。
この凹凸に食材が引っ掛かってしまうことで焦げの原因になります。
酸化被膜はその凹凸をカバーするように生成されるので、摩擦が減るというわけです。
鉄フライパンは出荷前に空焼きされて酸化被膜が既に生成されているものもありますが、その場合でも予熱によって酸化被膜の層がさらに厚くなり、また被膜の均一化と安定化の効果によって摩擦は低減します。
鉄フライパンの水分と食材の水分が引っ付きあう
ご存じのとおり、水分同士は接着しあう性質があります。
それがたとえ目に見えないレベルの水分であっても。
保管している間に鉄フライパンに目に見えない空気中の水分が付着。
水分が付着したまま調理をすると、食材の水分と接着して焦げやすくなってしまう。
なので、予熱で鉄フライパン側の水分をしっかり飛ばす必要があるわけです。
あと上述の酸化被膜は水をはじく性質があるので、予熱は一石二鳥というわけです
油を多めに使う
"油を多く使えば焦げにくくなる"
そんなの当然やん!と思う方は多いでしょう。
でもその理由を感覚的ではなく、ちゃんと説明できますか?
もし答えが"No” ならこれを機に学んじゃいましょう。
結論は以下です。
- 油は摩擦を抑える
- 油は高温から食材を守る
油には摩擦を抑える効果がある
クレヨンを想像してください。
クレヨンを紙に強く押しつけるほど、色が濃くなります。
これは摩擦が強くなることで、クレヨンの色素がより多く紙に付着するからです。
同様に、鉄フライパンと食材の摩擦が大きいほど、鉄フライパンに食材が付着します。
この食材の付着しやすさが焦げに繋がります。
そこで油の出番です。
油はヌルヌルしていますので、この摩擦を低減してくれます。
そんな油を多く使えば当然食材の付着は低減します。
多くの方が油を多く使えば焦げにくくなると感覚的にわかるのはこれが要因ではないでしょうか?
なお当然ながら感覚ではなく実際の研究でも証明されていますのでご安心を。
参考文献:鉄製フライパンの焦げつき性について(お茶の水女子大学 平野美那世)
油は高温から食材を守る
上述のとおり、焦げは食材を高温にさらし続けると発生します。
ならば、高温から食材を守ればいい。
油は熱伝導率が低いという性質を持ちます。
熱伝導率が低いと、鉄フライパンが超高温だったとしても、油はすぐには同様の温度にはなりません。
また油は食材と鉄フライパンの間に入るので、食材が鉄フライパンに接地するのを防ぎます。
このように油は鉄フライパンとの緩衝材となって、食材を高温から守ってくれるため、焦げが発生しにくくなるというわけです。
長時間高温で調理しない
高温調理は鉄フライパンの醍醐味。
かといって、上述してきたとおり、やり過ぎは焦げのもと。
油を使えば、それも量を多く使えば焦げはかなり抑制できますが、限界はあります。
使いすぎると料理もオイリーになって美味しくなくなりますしね。
とにかくほどほどに。
温度を上げきったら、強火はやめる
しっかり予熱して、油を投入して鉄フライパンが温まったら、もう強火じゃなくてOK。
重い鉄フライパンは蓄熱性もそれなりにあるし、熱伝導率も低いので簡単に温度は下がりません。
温度を上げきったら、中火以下で調理。
こうするだけで焦げは間違いなく減ります。
焦げついた場合のお手入れ方法
これまで書いてきたことを実践すれば焦げをかなり低減できるはずです。
ただそれでもやっぱり焦げ付くことはありますので、焦げ付いたときのお手入れ方法を段階別に記載しておきます。
軽度なコゲ:お湯でふやかす
中度なコゲ:重曹を使う
重度なコゲ:塩で研磨、過炭酸ナトリウムの使用
手順等の詳細は後述します。
軽度なコゲのお手入れ方法
軽度なコゲはお湯で十分。
お湯でふやかすことで焦げが柔らかくなり、簡単に落とせます。
- 鉄フライパンに水を入れて沸騰させる
- 5分程沸騰した状態をキープ
- お湯の温度が下がるのを待ち、タワシ等でこする
中度なコゲのお手入れ方法
表面がしっかり焦げたような中程度のコゲには重曹が有効。
アルカリ性の重曹が焦げつきの主成分である炭化物やタンパク質、油脂を中和して分解。
また重曹の研磨効果、加熱によって発生する気泡も焦げには有効です。
- 鉄フライパンに水と重曹(大さじ1~2程度)を入れて沸騰させる
- 5分程沸騰した状態をキープ
- お湯の温度が下がるのを待ち、タワシ等でこする
重度なコゲのお手入れ方法
固くこびりついたような焦げには、「擦る」といった物理的な除去も必要。
その際、塩を使うと研磨効果が高まります。
また重曹よりも強力な過炭酸ナトリウムの使用も効果的。
詳しくは書きませんが、強力な酸素系漂白作用とアルカリ性による複合的な汚れ分解効果が、焦げの除去には非常に有効です。
- 塩で焦げを擦る。
- 塩を洗い流し、温水を鉄フライパンに入れる
- 過炭酸ナトリウムをその商品の説明書に従って入れる
- 数時間放置したのち、タワシ等でこする
<余談>お酢は焦げのお手入れにほとんど効果がない
よくお酢が焦げに有効!との記事を見ます
お酢の酸が焦げに効くというものですが、科学的に考えるとあまり効果はないです。
重曹もお酢も、雑に言うと中和することで焦げを落とします。
重曹はアルカリ性なので、酸性の焦げに効果あり。
対してお酢は酸性なので、アルカリ性の焦げに効果があります。
が、アルカリ性の焦げってほとんどなくて、焦げとして残りやすい肉とか米などほとんどのものが酸性なんです。
なので多くの場合、重曹が有効でお酢は大して意味がありません。
まとめ
これまでのことを簡単にまとめると以下。
- 焦げは高熱と摩擦によって発生
- 予熱は摩擦低減、油は高熱から食材守る
→焦げ低減 - 長時間の高温調理はやめよう
- もし焦げても対処法はあるから大丈夫
これさえ守っておけば焦げはもう怖くありません。
快適な鉄フライパンライフ間違いなしです。
できるだけわかりよいよう書いたつもりですが、もし難しい部分があったらコメントで教えてください。
コメント