【だまされるな】キッチンツールの遠赤外線効果はほぼウソ

「遠赤外線でふっくらジューシー」
「遠赤外線効果で中から熱が通っておいしい!」

こんな広告、一度は見たことがあるんじゃないだろうか。

キッチンツールの紹介なんてしてると、こんなのしょっちゅう目にする。
そのたびに「やってんなぁ(皮肉)」と感じる次第。

なんでかって、これがほぼウソだからだ。

「いやそんなわけないっしょー」と思った人。
企業側に完全に踊らされていることを早く自覚したほうがいい。

そんな企業の術中にハマっている人の目を覚ますべく、なんでこの謳い文句がウソと断言できるのかわかりやすく解説するので最後まで読んでほしい。
この記事を読む人が増えて、根拠のないマーケティングに騙される人がちょっとでも減ればと願っている。

目次

【結論】キッチンツールが出す遠赤外線は微小レベル

先に結論。

  • 鍋でもフライパンでも、遠赤外線を放出しているのは事実
  • 遠赤外線が食材を加熱し、味に影響を与えるのも事実

それでも「ウソ」と言い切れる理由は、これらのキッチンツールが出せる遠赤外線の量が超微小かつ中まで浸透なんてしないから。
これは物理の世界では常識。

だからキッチンツールが発する遠赤外線によって、味がどうこうなるなんてありえない、ということ。

なんでこんな謳い文句が世にまかり通っているのか謎極まりないけど、それに対する私見もラストで述べているので最後まで見ていってほしい。

世の中にはびこる遠赤外線マーケティング

まず、本件のイメージをつけてもらうべく、遠赤外線効果を謳った広告例を挙げてみる。

  • 炊飯器:「土鍋の遠赤外線で仕上がりふっくら」
  • セラミックコートパン・鍋:「遠赤外線が食材の旨味を引き出す」
  • トースター:「遠赤外線効果でパンの外はカリッ中はふわっ」

キリがないのでこれくらいにしておくけれど、こんなの氷山の一角。
だいたいの加熱調理器具には遠赤外線効果を謳った商品がある印象。

そしてこれ、ぜーんぶウソ、企業の巧妙なマーケティング。
なぜそう言い切れるのか、順を追って説明していく。

そもそも遠赤外線とは

ぜんぶウソ、ということをわかってもらうためにはある程度の前提知識が必要。
なので、できるだけわかりやすく解説するので、ここから少し小難しい話に付き合ってほしい。

まず遠赤外線ってなんぞや?という話。

遠赤外線とは赤外線の一種で、波長が長い電磁波のこと。
ここで細かいことを言うつもりはないので、「ふーん」くらいで思ってもらったらOK。

重要なのが、熱を持つ物体はすべて赤外線を放出しているという事実。
太陽も、フライパンも、なんなら人間の体も赤外線を出している。

つまり「遠赤外線を出す」という事自体は、特別なことでもなんでもない。
ただ、当たり前のことを言っているだけ。

熱伝導には3種類ある

次にモノが加熱される仕組みについて。
モノへ熱が伝わる方法は3種類ある。

輻射(放射):モノに触れずに熱を電磁波(赤外線)として放出して伝える。遠赤外線はこれ

伝導:直接触れているものに熱を伝わる

対流:液体や気体の流れで熱が伝わる

それぞれの熱伝導の代表的な調理例をいうと、

輻射:炭火が放出する熱で非接触で肉を焼く
伝導:フライパンが持つ熱で肉を焼く
対流:鍋にある液体の熱が肉を加熱する

熱伝導の仕組みから浮かびあがる2つの論点

ここで、遠赤外線を謳った広告がウソかホントか考えるうえでの論点が見えてくる。

①キッチンツールは自身の持つ熱(遠赤外線)を非接触で食材に伝えられるのか?
②その熱がふっくらジューシーなど、食材にポジティブな影響を与えられるのか

例えば鉄フライパンの場合、”伝導”で食材に熱が加わるのは当然として、”輻射”で自身のもつ熱が伝わるのか?
かつ、その熱がなんらかのいい影響を与えられるのかということ。

もうこの時点で「はっはーん」とピンと来た人もいるはず。
ただそう思ったとしてもまだ感覚的でしかないと思うので、もっと理屈で理解してもらうべく、話を続けようと思う。

遠赤外線は食材の中まで届かない

さきほどの2つの論点を確かめるべく、ここから核心部分に入っていく。
まず①についての答えを確かめようと思う。

結論からいうと、①そのものに対する答えはYes。熱は伝わる。
ただ誇大広告はあたかも「遠赤外線が食材のなかまで浸透して加熱する」かのように書かれていることがほとんど。
これに対しての答えは明確にNoだ。

なぜなら遠赤外線が食材に届く深さは、表面からわずか数mmだから。
食材に含まれる水分・タンパク質・脂質が遠赤外線を表面でほぼ吸収してしまう。

「中まで熱が届いてふっくら」は物理的にありえない。
中まで熱が届いているのは伝導や対流のおかげで、遠赤外線は関係ない。

💡 補足
サウナや暖房で「遠赤外線は体の芯まで温まる」という話があるが、これも誇張。
人体への浸透深さも数mm程度で、「芯まで」は感覚的な表現にすぎない。

キッチンツールが出す遠赤外線は微小

さらに問題がある。
キッチンツールが出せる遠赤外線の量自体が、食材に有意な影響を与えられるほどのレベルにない。

遠赤外線の放射量は温度に比例する。
温度が高ければ高いほど多く出る。

輻射の代表的な調理例である炭火は800〜1000℃。
対してよく熱を保持できる鉄フライパンであっても調理温度はせいぜい250℃程度。
この温度差は放射エネルギーとしては25倍の差と、圧倒的な違いになる。

だから鉄でもホーローでも土鍋でも陶器でも、キッチンツールが出す遠赤外線なんてどれも微小レベル。
「うちの素材は特別」という主張に根拠はない。

遠赤外線マーケ問題はとっくの昔に指摘されてた

ちなみに遠赤外線の食品への効果については、1988年時点の日本の学術論文でもすでに「科学的裏付けに基づくものではなく、感覚に基づく内容のものが多い」と指摘されている(成瀬宇平, 栄養学雑誌 Vol.46 No.4, 1988)。
ちなみに海外でも同様

それから約40年経った今も同じ謳い文句が使われ続けているなんて、本当に驚き。
ここにはなにか理由があるのかもしれない。
血液型占いが会話のネタや人々の心理的安全性向上として機能しているように。

調理時の熱伝導の主役は「伝導」

調理時の加熱に遠赤外線、もとより輻射がほぼ寄与していないことをわかってもらったと思うけど、じゃあなにが寄与しているのかというと、ほとんどが”伝導”だ。

例えばフライパン調理では、食材がフライパンに直接触れている。
鉄フライパンの熱が食材の表面から内部に徐々に伝わり、加熱が完了するという仕組み。

食材とフライパンがくっついている時点で、遠赤外線が届く前に伝導で熱が伝わってしまう。
そしてたとえ届いても、食材表面で吸収されて終了。これが現実。

遠赤外線が効果を発揮するのは炭火やグリル

じゃあ遠赤外線が実際に効いているのはどんな場面か。

炭火焼き・グリル・魚焼きグリルなど、食材と熱源の間に空気の層がある「非接触調理」だ。

これらは熱源からの輻射(遠赤外線)が主な熱伝達の手段になる。
炭火は温度が高く放射エネルギーが大きいため、表面を一気に焼き上げる独特の仕上がりが生まれる。
加熱ロジックはこう。

  • 炭火からの遠赤外線(輻射)で表面が一気に加熱される
  • その熱の”伝導”と温められた空気の”対流”で内部で中までしっかり火が通る

炭火の圧倒的輻射熱が食材の内部に伝導と対流の力でじわじわと伝わることで、おいしく焼き上がる。
ということで「炭火焼きは美味しい」には物理的な根拠がある。

でもこれはやっぱりキッチンツールでは無理な話なんだ。

鉄フライパンの真骨頂は「熱の保持力」

じゃあ、例えばこのブログのメインである鉄フライパンで焼いた料理が美味しい本当の理由はなにか。

答えは熱容量の大きさだ。遠赤外線じゃない。

熱容量が大きいとは、簡単に言うと「たくさん熱をため込める」ということ。
冷たい食材をフライパンに乗せても、鉄はたくさん熱をため込んでいるので温度が下がりにくい。

温度が安定する → 食材の表面に一定の熱がかかり続ける → メイラード反応(美味しい焼き色)が均一に起きる

これが「鉄フライパンで焼くと美味しい」の正体。遠赤外線は関係ない。

なぜ企業は遠赤外線を謳い続けるのか

これまで見てもらえれば、私の「遠赤外線なんて企業のマーケティング」という主張を理解してもらえたかと思う。

では、なぜメーカーは根拠の薄い遠赤外線を謳い続けるのか?
ここから独断と偏見まみれの考察を書いていこうと思う。

企業の「差別化」と消費者の「納得感」が絶妙にマッチ

おそらくメーカー側も、遠赤外線に大した効能がないことはわかっているんじゃないかと思う。

それでも効能を謳うのは、鉄のフライパンをはじめとするキッチンツールは他社製品との差別化が非常に難しいからだと思う。

例えば鉄フライパン。
素材が同じ鉄なら基本的な性能は似通うし、製法・厚み・ハンドルのデザインくらいしか差別化のポイントがない。

そこで「遠赤外線効果」という科学っぽくて消費者が検証しにくい概念に走ってしまった。
遠赤外線は発生するし食材に届くという意味では「100%ウソではない」という絶妙な逃げ道もある。

一方で消費者も「より良いもの」や「人と違うもの」を求める欲求があるなかで、この遠赤外線がハマッた。
企業側の絶妙なウソともホントとも取れない謳い文句とそれっぽい説明をを見て「なんかすごそう」と想像力を膨らませ、購入するための理由付けとして活用してきたんじゃないかなと。

要するに、企業の「差別化したい欲求」と消費者の「納得したい欲求」とが見事に噛み合った結果、遠赤外線への幻想が依然として引き継がれてきているのだと思っている。

そういう意味では誰も損はしていないのかもしれない。
むしろこの事実を明るみにしてしまうことのほうが野暮でナンセンスだったりするのかもしれない。

キッチンツールの遠赤外線にまつわるウソホントまとめ

最後に遠赤外線マーケのウソ・ホントのまとめ。

【ホント】キッチンツールは遠赤外線を放出している
熱を持つ物体はすべて赤外線を出す

【ホント】遠赤外線は(炭火など非接触調理では)食材を美味しくする
高温かつ非接触の場合は輻射が主役になるので効果はある

⚠️ 【ウソ】キッチンツールの遠赤外線が食材の中まで浸透する
届くのは表面から数mmのみ。物理的にありえない。

⚠️ 【ウソ】キッチンツールの遠赤外線によって料理が美味しくなる
調理中の熱伝達の主役は伝導。遠赤外線の量も微小で、効果があるレベルではない。

これ以外にもウソともホントともとれる絶妙な用語で購買意欲を煽ってくるマーケティングに世の中にゴマンとある。

すべてをちゃんと理解するのは現実的に難しい。
ウソかもしれないと、と思ってもその物語のなかにいたいというということもあるだろう。

ただ一方で企業の口車に乗せられ続けるとホイホイお金が飛んでいってしまうので、「ここぞ!」というときは、しっかり調べるというクセをつけていきたいものだ(当然、自分も含めて)。

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